蓄電のベストミックスとLDES

政府のエネルギーミックスにあるように、2030年における再生可能エネルギー36%~38%を目指して再生可能エネルギーを導入していくには、蓄電システムの導入が欠かせません。というのも、太陽光・風力などの変動制再生可能エネルギーでその増分を賄おうとしているのに加え、同時に、調整電源である火力発電を減少させていくので、供給側での調整シロが二重の意味で減っていくからです。具体的には、電力の需給バランスについて、一日の中で調整、平日・休日間での調整、季節単位での調整について、蓄電システムが必要になっていくでしょう。

今後、蓄電システムがどのように導入されていくかについて、エネルギーミックスにおけるS+3Eの考え方にならって、安全性(S)を前提としたうえで、3つのE、つまり、経済性・安全保障・環境負荷を考えていきたいと思います。ただし、このうち、環境負荷については、発電の電源に依存し、蓄電システムの間では差がほとんどないので省きます。

まず、経済性についてです。発電の経済性を考えるときには、メリットオーダーは重要な考え方です。今後は、蓄電システムについてもメリットオーダーの考え方が導入されていくことが想定されます。

蓄電システムの場合は、「kW当たりのコスト」と「kWhあたりのコスト」のバランスにより、メリットオーダーが決まってきます。

 コスト/kW:安い コスト/kWh:高い → 短期向け蓄電システム
 コスト/kW:高い コスト/kWh:安い → 長期向け蓄電システム (LDES)

短期向け蓄電システムの代表格は、リチウムイオン電池です。リチウムイオン電池の直近の価格相場は、kWあたり6万円強~/kW、kWhあたり6万円強/kWhではないかと推測されます。1
長期向け蓄電システム(LDES)をどの技術がリードするかは不明ですが、そのコストのイメージとしては、kWあたりのコストがリチウムイオン電池の数倍だが、kWhあたりのコストはリチウムイオン電池の数分の1、というイメージかと思います。

日単位の需給調整には、相対的に、蓄電できる容量(kWh)よりも、短時間で充放電できる能力(kW)必要になります。他方で、週単位・月単位の需給調整には、充放電のスピードはゆっくりで構わないので、蓄電できる容量(kWh)が大きいことが求められます。
このため、日単位の需給調整用の蓄電システムには、kWhあたりのコストのみならず、kWあたりのコストが安いことも求められます。他方で、週単位・月単位の需給調整には、kW当たりのコストは多少高くても、kWh当たりのコストが安いことが重要になります。
言い換えれば、需給調整のニーズに応じて、導入される蓄電システムが異なることになります。最終的には、蓄電システムのベースロードのようなLDESのうえに、短期向けの蓄電システムが乗ってくるような形が、最も経済的な形になるのではないでしょうか

ただし、ほぼ間違いなく、普及が先に進むのは、リチウムイオン電池などの短期向け蓄電システムです。主な理由は3つ。1つ目は、蓄電システムの収益構造によるものです。蓄電システムの収益は、ざっくり、①充電時と発電時の値差、②充放電のサイクル回数の2点で決まります。当たり前ですが、年間のサイクル回数は、日単位など、短い時間の変動を調整する方が多くなるので、短期向け蓄電システムの方が収益性を上げやすくなります。
2つ目は、現在の再生可能エネルギーの導入拡大を牽引しているのが太陽光発電だからです。太陽光発電は、昼間には発電するがそれ以外は発電しないことから、電力需給の一日の中の短時間での変動が大きくなってきています。なので、短時間で貯めて、短時間で出すという需要が大きいのです。
3つ目は、より短い時間での需給調整(いわゆるΔkW価値)や発電能力(kW価値)にも価格がつくように市場設計が進んでいるからです。前者ΔkWの市場は需給調整市場、後者kW価値の市場は容量市場と呼ばれるものです。一般にLDESは短時間での出力調整が苦手なものが多く、ΔkW価値は出しづらく、需給調整市場での活用は困難と考えられています。また、当然ながら容量市場では、kW当たりの単価が安い方が有利となります。

それでは、LDESが普及するフェーズは来ないのでしょうか。需給調整ニーズの観点では、例えば以下の3つ場合については、比較的投資回収が行いやすく、LDESの普及が早いのではないかと考えられます。

・平日・祝日間の需給調整(年間の充放電の回数が少なくなく、見通しやすい)
・風力発電の併設(太陽光発電に比べて、一般に、発電時の持続時間が長い)
・ベースロード電源への併設(夜間ゆっくりためて、朝夕にゆっくり出す運用)

あとは、技術開発の動向次第です。長期のエネルギー貯蔵では、充放電の回数がどうしても少なくなる中において、設置者が投資回収を行わなければなりません。ですので、必然的にコストをどの程度下げられるかにかかってきます。つまり、kWhあたりのコストが、リチウムイオン電池に比べて大幅に安いということを実現させられるかが重要になります。

次は、安全保障についてです。短期向け蓄電システムの代表格であるリチウムイオン電池には、リチウム、コバルト、ニッケル、グラファイトなど数種類のレアメタルが使われています。これらのレアメタルは、もともと市場がそれほど大きくありません。そのため急速な需要拡大に対応できず、これから価格高騰をまねく可能性があります。すでに供給が不足して価格が上がっているレアメタルもあります。また、レアメタルは存在する国に偏りがあります。その中には、東南アジアや中南米、アフリカなど、政情不安などのカントリーリスクのある国や、輸入禁止などの資源ナショナリズムが顕在化している国が少なくありません。

リチウム、コバルト、ニッケルの生産国
(出典)JOGMEC, Industrial Minerals, USGS等により経済産業省作成

他方で、長期向け蓄電システムの技術においては、レアメタルを使用しないものも提案されており、経済安全保障の観点からLDESが求められる可能性もあります。

このように、短期向けの蓄電システムが得意とする需給調整ニーズと、LDESが得意とするそれは異なり、最終的にはそのベストミックスが求められるところです。しかし、LDESが解決する長期の調整の方が投資回収が難しく、そのため安価なLDESの実現が不可欠です。さらに、経済安全保障の観点からも今後LDESの需要が高まる可能性があり、我が国においてもLDESの技術開発が活発になることが期待されます。

  1. 「定置用蓄電システムの普及拡大策の検討に向けた調査」経済産業省2023年2月28日における「系統用・再エネ併設蓄電システムの導入費」工事費を加えた6万円/kWhから推測しています。このほとんどはリチウムイオン電池と推測されますが、一部、リチウムイオン電池以外の長期向け蓄電システムが混ざっていることから、リチウムイオン電池は、6万円/kWhよりやや高いことが想定されます。時間容量は同報告書の散布図から推測するに概ね1時間分程度なので、kWあたりも6万円強と推測されます。 ↩︎