NEDOによる圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)の実証事業の結果まとめ

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、2017年から、静岡県にて、早稲田大学やエネルギー総合工学研究所と圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)の実証事業を実施しました(既に終了し、撤去済み)。ここでは、NEDOの詳細な報告書をまとめて紹介していきます。
(注)これはNEDOの報告書を要約した記事であって、弊社が実施したものではありません。

事業名は、電力系統出力変動対応技術研究開発事業/風力発電予測・制御高度化/蓄エネルギー技術を用いた出力変動制御技術の開発(2014~2018年度)です。NEDOの報告書は、NEDOの成果報告書データベースにユーザー登録すると、誰でも見ることができます。今回の報告書は700ページ以上ありますので、ここでは要点を紹介していきます。

実証の概要

<実証場所>
静岡県賀茂郡河津町

<役割分担>
早稲田大学 : CAESシステムの制御技術の開発
エネルギー総合工学研究所 : 設備構築(神戸製鋼所へ外注し、神戸製鋼所が機器の設計や製造を実施 ※)

※ 事業開始時に、富士電機(株)から等温圧縮方式のCAES,(株)神戸製鋼所から断熱圧縮方式の提案があり、後者が採用された。

<規模>
発電最大電力及び充電最大電力 : 1,000kW
放電電力量 : 500kWh

CAES模式図

CAESの機器配置

空気タンクの圧力は、高圧ガス保安法の手続きが不要な範囲の最高使用圧力を0.98MPa(運用上限:0.93MPa)。当初は、空気タンク圧力を0.3MPaから0.93MPaの間で使用し、この間の充電量SOC(State Of Charge)を0%から100%としていた。しかし、実証試験を続ける中で、低SOCでは効率が非常に悪いことが判明し、試験途中から空気タンク圧力を0.5MPaから0.93MPaの間で使用することに変更した。

装置構成は下の図のとおり。圧縮及び膨張を2段階で実施。系統側から入ってくる電力で低圧段の圧縮機を動かし、空気を圧縮する。この時発生する熱を熱媒で高温タンクに運び、低温タンクから運ばれる熱媒で空気は冷える。この冷えた空気を高圧段の圧縮機でさらに圧縮し、空気タンクへ貯蔵する。また、この時発生する熱を熱媒で高温タンクに運ぶ。すなわち、充電時は圧縮した空気が空気タンクに、発生した熱は高温タンクにそれぞれ貯蓄する。発電時はこの逆で、空気タンクから出た冷えた空気を、高温タンクから運ばれる熱媒で温め高圧段膨張機(発電機)を動かす。この時、高圧段膨張機から出る冷えた空気を、高温タンクから運ばれる熱媒で再度温め低圧段膨張機を動かし発電する。また、冷えた熱は熱媒で低温タンクに貯蓄する。すなわち、発電時は、空気タンク及び高温熱媒タンクに貯蓄された空気、熱を使って発電機を動かし発電する。

CAES実証設備の装置構成

実証の結果

実際に充放電を実施・試験したところ、充電効率は68.4%、放電効率は63.6%となった。これにより、簡易的に充放電効率を計算すると、
 68.4% × 63.6% = 充放電効率43.5%
となる。

充放電効率が低い数値になっているのは、以下が原因と考えられる。
【原因1】
圧縮熱の回収と発電前空気の予熱に市販の合成熱媒油を使用したが、低温下では粘度が高く熱交換性能が十分に発揮できていないため、①、②の状況となりロスが発生。
①充電:圧縮熱回収用熱交換器の空気冷却が足りず高温タンクへ流出。大気への放熱により空気が冷えて縮む分、圧力が低下。これをカバーするため運転時間が長くなり放熱ロスが拡大。
②発電:圧縮熱加熱用熱交換器の空気加熱が足りず低温で発電機へ吸気。仕様より密度の高い低温空気が流れるため、SOCの低下速度が速く運転時間が短くなり,吸気加熱ロスが拡大。
【原因2】
圧縮機の内部漏れすきまが増大(推定)

これとは別に、発電機・充電機(実証機)それぞれ単機での充放電性能計測結果に補正を行って求めた充放電効率は54.7%となった。

本体の運転速度の最適化、高効率化・圧縮機/発電機の高性能化、熱交換性能の改善を実施すると、充放電効率は,上記実証機と同一運転条件で,63.6%まで向上(高圧化は除く)すると推定される。

実用化に向けた考察

上記の実証の結果を踏まえ、CAESを実用化するにはどのような点を改善すればよいか、その際に予測される充放電効率やコストはどの程度かについても考察されている。

(1)大規模化
CAES実用プラントの例として、中規模(入出力10MW,貯蔵容量4時間/8時間)と、大規模(入出力100MW,貯蔵容量4時間/8時間)とする。
(2)基本モジュール化
小さな最大出力(kW)の基本モジュールを設定し、その個数を調整して要求される最大出力の仕様に応じて構成することが有効であるため、基本モジュールの仕様を、0.5MWと1MWとする。
(3)圧縮機と膨張機の兼用化
充放電切り替えの運用に工夫が必要なものの、機器コストと設置面積の点でメリット大であることから,圧縮機と膨張機の兼用化を検討する。
(4)高圧化
高圧で貯蔵することで設置スペースを大幅に削減でき設備コストも削減できる可能性があるため、 圧縮空気を貯蔵するタンク圧力として、2MPaおよび5MPaの場合を検討する。
(5)定圧化
スクリュー式の圧縮機・膨張機は、可能な限り最高性能が出せる設計圧力点の近傍で動作させた方が高い充放電効率を発揮させることができる。このため、定圧で圧縮空気を貯蔵する方式と、変圧で圧縮空気を貯蔵する方式の比較検討を行う。
(6)蓄熱媒体の検討
CAES実証設備は、圧縮熱の回収と圧縮空気の予熱に熱媒油を使用した。しかし、周囲温度によって粘性が大きく変化し,特に粘性が高い低温環境下で熱交換性能が十分に発揮できないことが 実証運転・試験を通じて分かった。このため、現在使用している合成熱媒油に代わる熱媒を検討する。
(7)圧縮空気貯蔵(地下空間)の検討
地下空洞は、スケールメリットと貯蔵中の放熱が少ないなど利点がある。圧縮空気の大規模地下貯蔵として水封式貯槽とライニング式貯槽を比較検討する。
(8)充放電効率向上検討
CAES実機特性試験で、充放電効率が低い数値であったため、改善方策について検討を行った。
(9)コスト
上記の方針に基づいてCAES実用プラントの概略設計を行い、コスト検討を行う。地下貯槽についても、ケーススタディとして対象地点を想定してコスト試算を行う。

CAES実用プラントについて、10MWと100MWの2種の設備規模のプラント(地下空気貯槽(水封式)・定圧式・置換水河川利用のシステム)を例にして、その概略コストを試算した。その結果の概要は下の表のとおり。

終わりに

NEDOによるCAES実証の結果をまとめてきました。ざっくり言えば、
・小規模のプラントでの実証結果では50%程度の充放電効率だった。
・各種改善を加えて規模を大きくすれば充放電効率60%超が見込まれる。
・地下空洞で100MW・800MWh級のCAESを大規模に作れば、4万円/kWhを下回る可能性がある。
ということだと思います。

弊社では、このほか、エネルギー貯蔵に関する様々な情報を収集しておりますので、圧縮空気エネルギー貯蔵について、ご関心がありましたら、お気軽にお問い合わせください。